【題詠blog2007】(完走)

《冥の逸脱》DARK SIDE OF THE MOON by 小籠良夜 [14,June〜30,Oct.]




001:始 
遁走は神を殺めし其の日より冥王ひとり逸脱を始む
002:晴 
晴れわたる空恋ふ地球(テラ)の人ありき此の惑星の闇は好かぬか
003:屋根 
家庭とは父なる屋根に覆はれし獄舎なりとて啼くガーゴイル
004:限 
我が棲まふ冥の惑星消ゆるてふ天体望遠鏡の限界
005:しあわせ 
いざ踊れ我が花嫁よ新たなるふしあはせにて汝(なれ)を飾らむ
006:使 
彗星を不吉と言ふもおろかなれど何処(いづく)の使徒ぞ不意に額づく
007:スプーン 
ソドムより贋物市のまかり越しラスプーチンのスプーン出品
008:種 
種を棄て断たれし者の裔であらばをのこ同士よ娶り合ふべし
009:週末 
惑星に雨降り止まず非番なれど此の週末は鎌を研ぐ邪鬼
010:握 
生意気の稚児に仕置きの菖蒲草(あやめぐさ)あをき花穂は握りて毀(こぼ)つ
011:すきま 
愛あらば寝屋に素足でわたり来よいばらうばらのすきまなく生(お)ふ
012:赤 
赤き雨いよよ激しく降り頻り愛(は)しきにひづまの戦ぎらひ
013:スポーツ 
貴殿もか気をつけなされ燕くるスポーツジムに隣り合ふコキュ
014:温 
冷血の性(さが)は父祖より受け継ぎて同胞(はらから)のみな低体温
015:一緒 
一緒にはせんでおくれなひた走る馬どもと吾の荒き呼吸を
016:吹 
巨鯨(くじら)吹く潮に乗り来し法螺吹きの海なつかしむ老初年兵
017:玉ねぎ 
玉ねぎの芽吹くくらがり廚(くりや)とは妻がひめごと孕めるところ
018:酸 
船長に注文したり宴には酸き血したたるリヴァイアサンを
019:男 
老水夫むかしむかしを語りせば若き男は海を征(ゆ)くべし
020:メトロ 
にひづまの胸のうつろに燕きてメトロノームが百八つ揺る
021:競 
俺がこと貴様が事もあまた些事またけふもつまらぬ競ひ合ひ
022:記号 
言の葉は記号と化せり北向きの寝屋の窓より放つつばくら
023:誰 
「彼(か)は誰ぞ」汝(なれ)に事問ふ術もなく我が惑星は宵にかたぶく
024:バランス 
公転のくびきを解きて月は離(か)る真夜みだれゆく星のバランス
025:化 
化粧(けはひ)して宴に出でたるにひづまの唇 酒ふふみても蒼し
026:地図 
飛行艇けふも旅発つぬばたまの天体地図も記(き)さぬ最果て
027:給 
あどけなき給仕ガニメデ呼び出だし髭の生(お)ふまで酌をさせたり
028:カーテン 
泥酔のコキュに応ふる故もなしと寝屋のカーテン揺れて戻らず
029:国 
いづれ滅ぶ冥の国なりいまさらに跡目成さずとも知つた事か
030:いたずら 
いたづらに奪ひし妻ゆゑいたづらを死垂る下﨟(げらう)へ払ひ下げたり
031:雪 
深海に降る雪を見つ 我が星のいづくにもなき光景なれど
032:ニュース 
かつて地球(テラ)と呼ばれし星は干涸びてニュースペイパー紙吹雪なす
033:太陽 
我が星は最果てなりき地球(テラ)涸るはそも太陽の肥大伝説
034:配 
ちはやふる星の配列神の手も千代に八千代に不変と思ふな
035:昭和 
昭和なる四十五年の「月の石」崇めしは天帝の胆石
036:湯 
湯に雪ぐまだ尻青き小姓など喰ひ散らしつつ募るいらだち
037:片思い 
あはれ其が片思ひとは笑止なり燕とらへて痛き片腹
038:穴 
墓穴掘る男よ汝(うぬ)が若さもて我に示さむブラックホール
039:理想 
去り行くは知らぬをみなご肌潔きままに身籠る其の理想郷
040:ボタン 
身仕度のさなかに気づく唐衣カフスボタンの片方が無し
041:障 
心なくば愛はかなはじ目障りなわたくしは排除されて然り
042:海 
貴方から奪ひしものは石ひとつ身捨つる海もなき砂の星
043:ためいき 
解き放つためいきゆゑの咎なれば後生たれをも想ひ致さじ
044:寺 
かのつばめ訪ねてみれば空の巣に寺山修司『花粉航海』
045:トマト 
たれも知らずわれに孕みの徴(しるし)あり青く熟れたるトマト酸き夜
046:階段 
いづくへと誘(いざな)はるるか宙吊りの階段へ踏み出すもわたくし
047:没 
新しき月の産土(うぶすな) 見渡せば此処からの日没はうつくし
048:毛糸 
編むほどに指に絡むるいろいろの毛糸の端(つま)は悪しき思ひ出
049:約 
「新しきふしあはせにて飾らむ」と汝(な)の約束は反古のひときれ
050:仮面 
わたくしは月を抱(いだ)きて直立すつまの仮面は疾(と)うに剥がして
051:宙 
宙吊りの夢より醒めしあさやけに百光年の独り身を知る
052:あこがれ 
此の星に戯(そば)ふる雨よあこがれの其の先にある真空地帯
053:爪 
深爪のをのこ嬲りつ鉤爪に蒼き螢火ともす堕天使(ルシフェル)
054:電車 
ますらをがつひに斃(たふ)るるひのもとの通勤電車てふ収容所
055:労 
我が星に無きもの問はれ嘯(うそぶ)くは地獄極楽労働組合
056:タオル 
ボクサーの襤褸雑巾と成り果てて投げ入れられぬタオル真白し
057:空気 
あらし来て地球(テラ)脱出の最終便 空気圧急速に下降す
058:鐘 
晩鐘は永久(とは)に鳴らざり赤錆のなみだぼろぼろと毀(こぼ)つ夕べ
059:ひらがな 
はらからになにをおくらむたをやめのひらがなもじであやめたるこひ
060:キス 
螢火をともすルシフェル願はくは我に久遠(くをん)の死の香のキスを
061:論 
ヴェニスてふ水都落暉にMuse見たる無神論者の安楽に死す
062:乾杯 
みどりなすアブサン盛りて夏逝くを乾杯死垂る耽美派残党
063:浜 
黄昏の砂浜乱し少年の組んづ解れつして融解す
064:ピアノ 
退屈は汝(な)がたましひの腐敗ゆゑサティのピアノより聴かせぬ
065:大阪 
黙示録顕現せしやゴモラめく大阪湾上空イナゴの日
066:切 
あまかくる通信網を切断しおまへひとりをつらぬく今宵
067:夕立 
いなづまに怯ゆるおまへ羽交ひ締めただ濡れ戯(そぼ)る愛の夕立
068:杉 
いたづらに訪ね来たれば鄙の屋の標(しるし)の杉に落つるいかづち
069:卒業 
くちづけは卒業せしと生意気を言ふくちびるに白蛇の這ふ
070:神 
夏の日のまぼろし汝(なれ)はいにしへの山の神にて我を離(さか)れり
071:鉄 
くれなゐの恋に焦がれし創造の想ひの果ての鋼鉄の処女
072:リモコン 
あまたある拷問機器をうたた寝の魔王リモコンにてあやつれり
073:像 
いにしへの巨象を撫づる愚かさに然(さ)も似たり希求さるる虚像
074:英語 
とつくにの英語にて云う “Paranoia” 貴殿らの「妄想」とは如何に
075:鳥 
翼なき鳥を飛ばせむ 篭に在れば餌も快楽(けらく)も不足なけれど
076:まぶた 
火の月の褥暑(じょくしょ)或いは汝(なれ)ゆゑにまぶたのうへに踊る妖鬼妃
077:写真 
霊魂の在らば象(かたち)をさらすべし月明りせる写真館にて
078:経 
そのかみの経典ひらく老導師 闇よ光に消さるるなかれ
079:塔 
神あれば魔の共にあり仄暗く土塔林立する異教の地
080:富士 
ももとせも三たび上りてひのもとの富士てふ山の変容を観む
081:露 
ともすれば愛しき汝(なれ)の姿とて露光過度にてしらじらと消ゆ
082:サイレン 
サイレンの歌や聴きなむ水底に連れゆかるるも一興なりと
083:筒 
封筒の内に潜みぬむらさきの闇は秘め事に染(そ)みて昏し
084:退屈 
退屈を持て余したる天帝がつひに封印解く大あくび
085:きざし 
崩壊のきざし明らかなる朝(あした) 太陽黒点は増殖す
086:石 
其処此処に無惨極まる同胞(はらから)の遺骸 石灰にて塗り固めよ
087:テープ 
曖昧な記憶は消去さるるべしヴィデオテープに残れる浮世
088:暗 
これよりは暗黒の御代 畏れ入れば天帝蛮声の呵々大笑
089:こころ 
忘却の彼方はるかなをみなより「アナタノこころ、マダアリマスカ?」
090:質問 
形なき質問状を受け取りて我はひとりの人格を成す
091:命 
命生(あ)れ命果つ世の円環に外れて在りき不死者なる我
092:ホテル 
再会は暮れの銀河の「ホテル・ノヴァ」火星五代(ペンタ)、紅眼白髪。
093:祝 
祝杯を挙げよたちまち藻屑なるシャンパーニュ金色(こんじき)の流星
094:社会 
天帝が統べたる宇宙 なほ暗き社会科学の滅びゆく日々
095:裏 
通信の手段も絶えて久しけれ目次の裏の汝(なれ)が筆跡
096:模様 
受け容るる如く彼方を仰ぎ見る冥王星の空模様かな
097:話 
ひさかたのつま傍らに耳を貸せば地球(テラ)の話は尽きるともなく
098:ベッド 
ひとたびを今ひとたびを睦みあふベッドふたたび煉獄と化す
099:茶 
吾妹子よ此れが納めと願はくは薔薇茶に毒を盛つて来られよ
100:終 
遁走は永久(とは)に終らぬ矮星と成り下がりても冥の逸脱

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by tanka_meitey | 2009-03-01 00:02 | 先代冥亭分預り