夭折の定義
水飼場まみづの匂ひくらやみに牛・馬らのみ聖家族なす 浜田到[『架橋』昭和44年]以下同
大正7年生、昭和43年歿。医師。夜間の往診の途中、自転車が側溝に落ちての事故死だった。
という話を聞いてのち、静謐な趣の遺稿集の中に、自身の「死」を予感した歌に出会うと、何だか納得、というのでもないが、「やはりそうか…」と思ってしまうのは何故だろう?
汝が脈にわが脈まじり搏つことも我れの死後にてあらむか妻よ
死に際を思ひてありし一日のたとへば天体のごとき量感もてり
医師や数理学者の詩歌には、独特のクールさが伴う。情感のみに支配されないそれらは、ときとしてシュールに振る舞う。グロテスクを識るゆえのニヒリズムというべきか?…それはおいといて。冥亭的に今回、挙げたかったのは下の一群。「まみづの匂ひ」がする★
熟るるまじと決意する果実、雷の夜の固き芯めく少女とあり
妹、その微睡の髪薫る日を血よりさみしきものかよふかな
桑畑の炎昼のくらさ・あかるさに籠りて少年鎌研ぐ日々
少女白く喪失(うしなひ)にみちてかがよへば十月の婚の祝はれにけり
冬もいなづま傷つくるそら愛しやすく少年渇けば樹に雪ふれり
by tanka_meitey | 2009-10-03 15:21 | 喫歌室